「米粉 きほんの“き”」– 知っておいしい米粉の話 –
近年、注目度がどんどん高まっている食材「米粉」。
なんとなく体によさそう……というイメージはあるものの、
実は米粉のことはあまり知らない、どう取り入れていいのか分からないという方も
少なくないのではないでしょうか。
そこで、米粉料理家としても活躍する管理栄養士の中村りえさんに
今さら聞けない初歩的な情報から期待できる効果まで
米粉に関するさまざまなお話を2回にわたって伺いました。
第1回は、押さえておきたい“米粉の基本”をお届けします。

教えてくれた人…中村りえさん
プロフィール管理栄養士/米粉料理家。食品メーカーで商品開発、健保組合でセミナーの企画や広報に携わり、独立。レシピ開発、コラムの執筆、メディアへの出演など幅広く活動中。家族のアレルギーをきっかけに米粉に出会い、そのおいしさに魅了される。日本人の米離れの深刻さを学んだこともあり、米食の素晴らしさを伝えるべく米粉や米食レシピを発信する。著書に『まいにち食べたい 体にやさしいお菓子』『米粉のおやつとおかず』(以上、宝島社)がある。
そもそも米粉って何?
——そもそも米粉とは何なのか、まずはそこから教えていただけますか?
「米粉」は、米粉用のお米を挽いて粉にしたもので、パンやお菓子、麺などに使うことができます。主食用のお米にもいろいろな品種があるように、米粉用にもさまざまな品種が開発されています。ちなみに、お団子の原料として知られる「上新粉」も、米粉と同じくうるち米を粉状にしたものです。「白玉粉」や求肥や大福の原料となる「もち粉」はもち米を粉にして作られたものなので、これらも米粉の一種といえます。
たまに、「米粉はそのまま食べられるのですか?」と聞かれることがあるのですが、アルファ化米粉という特別な加工を経て作られた米粉以外は米を生のまま粉にしているので、基本的に加熱調理せずに口にすることはできません。
——上新粉や白玉粉も米粉の一種だなんて知りませんでした。日本人は昔から、米を粉にして活用してきたんですね! そして最近は、和菓子以外にも米粉を使ったパンや洋菓子、料理のレシピをたくさん見かけるようになりました。小麦粉だと、薄力粉や強力粉などを用途によって使い分けますが、米粉の場合は「米粉」と書いてあれば何を使ってもいいのでしょうか?
実は米粉とひと口に言っても、使われているお米の品種や製粉の方法などにより、それぞれ特徴が異なります。例えば、粒子が細かい米粉のほうがお菓子作りに向いているというように、米粉も用途によって使い分ける必要があるのです。そこで、農林水産省が「1番:菓子・料理用」「2番:パン用」「3番:麺用」と用途別に米粉を分類し、購入者にとって分かりやすいように表記の基準を策定しました。※1
表示義務があるわけではないので、すべての商品に記載されているわけではないですが、これを参考に米粉を選ぶのも一つの方法です。レシピ本などでは使われている米粉が記載されていることもあるので、そうした場合は同じものを使うのもいいですね。
※1 出典:農林水産省「米粉をめぐる状況について」(令和6年1月)

米粉は扱いやすく 片づけもスムーズ!
——使う米粉によって仕上がりに違いが出てくるのですね。米粉を活用するのは何だか難しそうです……。
そんなことはないですよ! 例えば、吸水率が高い粉だと膨らみが弱くなり、よりもちっとした食感になるなど、米粉の特性を理解すれば、「こんなはずじゃなかった……」と悩むことは格段に少なくなるはずです。それに、料理の場合は、お菓子やパンと比べると使う米粉の量も少ないので、商品の違いによる差も出にくいと思います。パンを作って余ったパン用の米粉を、小麦粉の代わりに唐揚げや天ぷらの衣に使ったり、片栗粉の代わりにスープのとろみづけに使ったりしていただいても、問題ありません。
——まずは、パンやお菓子用はレシピ本などで紹介されているものと同じ米粉を使って、料理にはその残りを使うという方法だったら、比較的気軽に挑戦できるし、米粉を余らせてしまうという心配もなさそうですね。
はい。それに、米粉を使ったお菓子作りは難しそうだと思われがちですが、実はあまりテクニックがいらず、簡単にできるんです。まず、米粉は小麦粉と違ってダマになりにくく、液体にもサラッと溶けるので、「粉をふるう」という工程を省くことができます。そして、小麦粉を使ったお菓子の場合はグルテンを発生させないように「さっくりと混ぜる」「切るように混ぜる」という記述がレシピによく出てくるのですが、米粉はグルテンが発生しないので、基本的に何も気にせずグルグル混ぜても大丈夫なんですよ。逆にパンの場合は、小麦粉を使うときはグルテンを発生させるためにたくさんこねる必要があるのですが、米粉だとその必要がないので、粉っぽさがなくなるまでこねるだけでOKだったりもします。
さらに、米粉は水に溶けやすいので、小麦粉のようにボウルにこびりついて取れないということもありません。使ったあと、ちょっと水に浸しておけばツルッと簡単に落ちるので、後片づけもラクにできます。
——それはいいこと尽くしですね! ますます米粉を使ってみたくなりました。米粉を活用するうえで、気をつけたほうがいいことはありますか?
先ほど、米粉でスープにとろみをつけるというお話をしましたが、片栗粉と比べるととろみがつきにくい傾向があるので、量は適宜調整してください。また、米粉でとろみをつけると白っぽさが残るので、牛乳を使ったスープやシチューに使うのがオススメです。唐揚げに使うときは、米粉だけだと衣があまりつかないことが多いので、その場合は片栗粉を同量程度加えてみてください。

もちっ、さくっ、ほろっ、カリッ!米粉ならいろんな食感が楽しめる
——では、肝心の味はどうなのでしょうか? 米粉独特の味がするということはないのですか?
商品によっては、米の甘みが多少強く出るものもありますが、そば粉のように存在を強く主張するようなクセのある味でもないですし、小麦粉で作れるものなら、だいたい何にでも使っていただけると思います。
——だから、お菓子から料理まで、幅広く使えるのですね。では、食感はどうでしょう。
米粉を使うと、もちもちした食感になると思われることが多いのですが、実は配合次第で、さくっとした食感やほろっとした口溶けのクッキーを作ることもできます。また、小麦粉に比べて油の吸収率が低いので、唐揚げや天ぷらなどの揚げ物に使うとカリッとした食感に仕上がります。そして、炊いた(加熱した)お米は冷めるとでんぷんの組成が変わり、かたく締まるという特性も。なので、揚げ物に使う場合は冷めてもしなしなになりにくく、時間が経ってもおいしく食べることができるのです。
——いろいろな食感が楽しめるのも、米粉の魅力の一つなんですね!
なぜ今、米粉が注目されているの?
——知れば知るほど、米粉の魅力に気づかされますが、そもそも米粉が注目されるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
まずは「グルテンフリー」という言葉がメジャーになってきたということが挙げられます。グルテンフリーとは、小麦粉などグルテンを含む食品を摂取しない食生活のこと。また、グルテンを含んでいない食品を指すこともあります。
テニスのジョコビッチ選手が10年ほど前に出した本の中で、グルテンフリーを実践したことで世界王者にまで上り詰めることができたと語ったことも、この言葉が注目されるようになった理由の一つだと思います。また、健康や美容に詳しいモデルさんや美容家さんたちが、自身のSNSなどで、グルテンフリーの商品やお店の情報を発信しているのを目にする機会が増えたことも、グルテンフリーの食品である米粉が注目される要因の一つになったのではないでしょうか。
——今は、米粉を使った商品もたくさん見かけるようになりました。多くの人に浸透してきているなと実感します。
米粉が急速に普及してきた要因の一つには、食べるものはできるだけ国産品を選びたいと考える方々による一定数の支持もあるはずです。また最近は、国産のものを選ぶことで、日本の農業を応援したいと考える方も多くなってきたように思います。
エビデンスがあるわけではないので、グルテンフリーを実践すれば、誰もが健康や美容の面でよい効果を得られると言うことはできません。ただ、小麦粉よりも脂質が少なく、胃腸への負担が少ないからか、米粉に替えたらお腹の調子がよくなったなどというプラスの効果を感じている方は確かにいらっしゃいます。そして、先ほどお話ししたように、洗い物がラクだからとか、時間が経っても揚げ物がおいしいからとか、使いやすさや利点を実感して使い続けてくださる方が増えているからこそ、米粉の需要も伸び続けているのではないかと考えています。
——米粉が支持される理由がよく分かりました。ただ、お話を伺っていて気になったことが……。今、米不足が問題になっていますよね。米粉用のお米を主食用としてスライドすることはできないのでしょうか?
そうですね。流通ルートが異なるので、それは現実的ではないと思います。農家さんは米粉メーカーさんなどと契約して、最初から米粉として使うためのお米を作っています。つまり、あらかじめ卸す先と使い道が決まってしまっているのです。メーカーさんも年間の製造計画は決まっているでしょうし、お米が足りないからといって、いきなり、収穫したうちのいくらかを主食用として融通するといったことは、やはり難しいのではないでしょうか。
米粉はどこで買えるの?
——米粉はどこで買えるのですか? 気軽に手に入れられるものなのでしょうか?
「菓子・料理用」の米粉であれば、今はだいたいどのスーパーにも置いてあります。小麦粉など粉類が並ぶコーナーや、製菓用品コーナーを探してみてください。「パン用」の米粉は、製菓用品店や大きめの自然食品店などに行けば見つかると思います。買いたい商品が決まっている場合は、ネット通販などを利用するのも便利でいいですよ。
——いろいろなところで売っているんですね。これならすぐに米粉生活を始められそうです!