「○○ちゃんのお母さんのパン」を、もっと広げたい。専業主婦から“米粉の母”へ――大塚せつ子さん
【米粉と出会って人生変わった】あの人のストーリー #1
ひとりの専業主婦がパン作りと出会い、小さなパン屋の店主に。そして、小麦アレルギーの子どもとの出会いをきっかけに始めた米粉パン作りが、その人生をさらに大きく動かしていきました。「米粉なら、家庭でも手軽においしいパンが作れる」。そんな思いから、“○○ちゃんのお母さんのパン”をもっと身近なものにするため、米粉の可能性を広げ続けてきた大塚せつ子さん。「導かれるようにここまで来た」と語る“米粉の母”の、米粉とともに歩んだ20年をたどります。

「おいしいパンがないなら自分で焼けばいい!」それがパン作りとの出会い
元々は専業主婦だった大塚さん。体を壊したパン好きの親友に「おいしいパンを届けたい!」という思いからパン作りを始めたところ、そのおいしさが近所で話題を呼び、「サラ・ブレッドハウス」というパン店を開業することに。それが1995年のことです。
「当時、素材にこだわったパンは『健康一番、味二番』と売っている人たちが言ってしまうほど、生地が硬かったり、味が今ひとつだったり、決して『おいしい』と言えるものではなかった。それなら自分で焼けばいいじゃない! と思ったんです」
パン作りの上手なママ友に弟子入りし、子育てや家事をしながら、毎日パンを焼く生活が始まります。
国産小麦と天然酵母にこだわったパンは、地元・八王子で口コミを中心に評判が広がり、周囲から「お店にして売ってほしい」という声が多く寄せられるように。そこで、自宅の敷地内に小さなお店を開業しました。そのおいしさは次第に八王子の外にも広まり、やがて全国へ。大手スーパーチェーンでも取り扱われるほどの人気となりました。
「パンを焼くのも楽しかったけれど、酵母の世話をするのも楽しかったんです。それまで趣味って何をしても長続きすることがなかったのですけど(笑)。自分でも想像しない方向にどんどん広がっていきました」
そんな時、大塚さんに転機が訪れます。
パンを食べたことない子どもたちのため、米粉パンの開発へ
ある日、お店に来た小麦アレルギーのお子さんを持つママから、「うちの子は小麦アレルギーなので、パンが食べられないんです」と言われた大塚さん。
当時はグルテンフリーのパンはまだ世に出ていませんでした。そんな時「米粉パン」の発売という記事を見て、パンを買いに行ったら“米粉にグルテン”を入れて焼いたパンでした。結局、小麦アレルギーのお子さんたちは食べられず、本当にがっかりしたそうです。
小麦アレルギーだとしたら、パンもパスタ・麺類も食べられません。
「一度雑穀のパスタを食べてみたら、本当にぼそぼそで、小麦アレルギーの人はこういうものを食べなければならないのか、と涙が出て……」
そこで再び、持ち前のチャレンジ精神がむくむくと湧き、当時は不可能とされていたグルテンフリーの米粉パン作りの研究を始めます。
「作るなら国産のお米と白神こだま酵母で……」と、素材にこだわっていろいろ試したそうですが、なかなか発酵がうまくいかず、試行錯誤が続きました。ある日、どうせまた失敗するだろうと米粉を半分に減らしたものの、水分はいつもと同じ量を入れてしまいました。ところが、思いがけず発酵に成功。この偶然の発見をきっかけに、グルテンフリーの米粉パン作りの理論を確立していきました。
不可能といわれた米粉パンが完成したのです。
「それまで“パン”を食べたことのなかった小麦アレルギーの子どもたちに試食してもらったときの笑顔が、今でも忘れられません」

料理教室から田んぼへ。「未来の子どもたちに、お米を残してあげたい」
どんどん米粉でのパン作りにのめりこんだ大塚さんは、それまでのパン屋を後継者に譲り、米粉パン、さらには米粉料理の開発への道にまい進し、2008年には米粉専門のクッキングスクールを開校します。
現在、「Glutenfree Cooking Academy Onegrain」として、体験や1dayコース、本格的な講師認定コースがあり、米粉パンはもちろん、麺や餃子、お菓子作りなども学ぶことができます。北は北海道から南は沖縄まで生徒さんが通ってくるそう。
「そのおいしさと共に『米粉でこんなものまで作れるんですね!』と、レシピの幅広さにみなさん驚かれます」
コース終了後は、自分でパン屋さんなどを開業する人も多いそうで、大塚さんはその支援も行っています。
「以前開業されたご夫妻は、定年退職したご主人さまの方がお店作りにとても協力的で(最初は反対していらしたのに……笑)、人生のセカンドステージで米粉パンがお役に立っているようです」
また、米粉に関わるうちに、日本の田んぼを取り巻く状況にも目を向けるようになった大塚さん。
「米粉の原料となるお米には大きな可能性があります。炊いて食べるだけではなく新しいお米の食文化の可能性を伝えたい。そして、未来の子どもたちに、お米を残してあげたい」
と、田んぼを守るために、米農家と直接契約をするなどといった保護活動も行っています。

米粉のパンは「○○ちゃんのお母さんのパン」であってほしい
「米粉のパンを作るのに必要なものは、やさしさです」と語る大塚さん。
米粉にはグルテンがないため、小麦粉のパンのように生地を力強くこねる必要がありません。力に自信のない人でも気軽に作れることも、米粉パンの魅力のひとつだといいます。
「だからこそ、『○○ちゃんのお母さんのパン』と呼べるような、身近で安心して食べられるパンを広めたいんです。余計なものを入れず、作る人の愛情がこもっている。それが大塚せつ子の米粉パンなんです」
米粉を使った、おいしい料理をもっと沢山の人に知ってもらいたい、そのための接点を増やしていきたいとも語る大塚さん。
国産小麦のパン屋さんに始まり、今は米粉のクッキングスクールを主宰するまでになったわけですが、「自分でこうしようとか、ああしようとか思ってきたのではなく、何かに導かれるようにといいますか、気が付いたらここにいたという感じです。今はこれが自分の使命だったのではないかと思っています」

最後は、米粉のごちそうをいただきました!
取材当日も気さくな人柄で、「米粉の可能性は無限大。今日はあえてパンではないメニューをぜひ食べていただきたくて」とスタッフのために、米粉を使った冷やし中華とお好み焼きを用意してくれました。
そんな大塚さんの米粉ストーリー。「導かれるように」という言葉がとても印象的でした(お料理とっても美味しかったです!)


プロフィール

大塚せつ子(おおつか せつこ)
料理研究家。白神こだま酵母技術アドバイザー。小麦アレルギーを持つ子どもたちのために当時は不可能とされていた米粉100%のグルテンフリーのパンの開発に成功。現在は、Glutenfree Cooking Academy Onegrainを主宰する傍ら、日本の食文化や米作りを応援する活動も行っている。著書やメディア出演も多数。
▼Glutenfree Cooking Academy Onegrain
https://www.gf-style.com